初回となる今回は、『聞く力トレーニングブック』と『聞く力トレーニングブック2』についてお話しします。
■適応に不可欠な「ワーキングメモリー」
思考などの際に必要になる一時的な記憶力で、頭の中の作業台とも言われる「ワーキングメモリー」。
最近、この力が学習や生活上の適応にとって重要であることが、多く指摘されるようになっています。
例えば、「5÷2=2あまり1」という計算をする際に、「2×2は4だから、5から4を引くとあまりは1」
を頭の中ですすめる場合に、ワーキングメモリーを活用していることになります。
また、「今日の体育は体育館から校庭に変更になりました。着替える場所も教室ではなく更衣室に変更になります。
縄跳びを忘れずに持って行きましょう」などのように、複数の指示が出た場合、それを覚えておく力にも影響します。
このように、学習や生活上の適応に関連が深いのがワーキングメモリーです。発達支援をしていると、
ここに苦手さがあるお子さんが多くいます。
■6つの観点から「聞く力」を伸ばす
しかし、ここに手立てを打てるような教材はほとんど無く、療育や学習支援に取り組む現場の先生たちの
工夫に任されていました。
市販の教材としては、幼児教育向けのお話の聞き取り教材はあり、小学校低学年のうちはそれでもいいのですが、
学校場面を想定したものではないため、先にあげたようなつまずきに対応しにくい状況でした。
そこで、Eラボスペースの療育・学習支援活動で使用している聞き取り・記憶教材を広くお使いいただくため、
『聞く力トレーニングブック(以下『聞く力1』)』を刊行しました。
支援者の先生や保護者の方が読み聞かせる形の教材で、お子さんは聞いた言葉を覚えたり、
覚えたことを元に考えたり、思い出したりという課題に取り組みます。
「聞いて覚える(記憶)」「注意して聞く(注意)」「聞いて思い出す(想起)」「聞いて考える(思考操作)」
「聞いてイメージする(想像)」「音をとらえる(音韻認識)」の6つの観点から問題を構成し、
これに取り組むことで、ワーキングメモリーの下支えを図りつつ、聞くための注意の向け方や姿勢を身につけ、
また、聞くためのコツをつかめるよう配慮しています。
継続的に取り組んでいく中で、聞き取りが楽になったというお子さんも多く、
子ども達の適応にお役立ていただける一冊ではないかと考えています。
■子どもたちの力を少しずつ育んでいく使い方
使い方としては、一般の学習教材と異なり、一気にすすめて○や×をつけるようなものではなく、
定期的に少しずつ取り組むことで、「少しずつ力を育む」という使い方を想定しています。
また、ページ順にすすめるものでもなく、先に述べた6つの観点のバランスがとれるように、さまざまな問題に少しずつ取り組みます。
取り組み時間としては5分、長くても10分くらいを想定しています。
療育や学習支援活動においては、導入に使ったり、学習の合間にクイズ形式で進めることが多いようです。
また、ご家庭で取り組んでいる場合には、何かの待ち時間等に取り組むなど、
場所を選ばない使い方をすることもあるようです。
■『聞く力1』と『聞く力トレーニングブック2』の違い
『聞く力1』はスタンダードな教材としてお使いいただけるよう、バランスを考えて構成しましたが、
続編である『聞く力トレーニングブック2(以下『聞く力2』)』は、より難易度のやさしい問題からスタートし、
同難易度の問題を多く収録しているのが特徴です。
例えば『聞く力1』の「音の分解」問題では、「とめけがいね」→「とけい」「めがね」と、
聞いた言葉を分解する課題に取り組みますが、『聞く力2』では「いるくじらか」など「動物に分ける問題」
と限定することで、より低い年齢のお子さんにも取り組みやすいように配慮しています。
ただ、『聞く力2』でも、最終的な難易度は『聞く力1』と同程度となっています。
また、全般的な聞き取り力の向上をめざした『聞く力1』に比べ、
『聞く力2』は、メモをとる練習に活用しやすく、また、「待ち合わせ」→「時間と場所を聞き取る」
のように、聞くためのコツをつかむなど、聞くためのスキル向上に特化した問題を多く収録しています。
1と2のどちらが先、ということはなく、どの問題からでも取り組んでいただけるようになっていますので、
実際に接しているお子さんたちの様子をみながら、どの問題に取り組むのかを検討してください。
また、『聞く力1』『聞く力2』のどちらも、聞き取る力、覚える力に関連したコラムを、多く収録しています。
合わせてご活用いただき、お子さんの成長につなげていっていただけたらと思っています。
※本教材にはCD等は付属しておりません。
お子さんの状況に合わせて支援者の方が読み上げながらすすめてください。
2018/08/10掲載